人間はほぼ、錯覚を見ている
先日、NHKの「フロンティア」という番組で、人間の錯覚をテーマにした面白い番組がありました。
科学や脳科学など様々な分野の研究者たちが、人間がなぜ錯覚に陥るのか、そのメカニズムを研究し、そこから新たな技術によって革新的な未来を創造するといった、なかなか希望がある内容でした。
さて、「錯覚」とは、見たものが実際とは違うように見える現象と解釈します。しかし、多くの研究者の認識は、『見たものが正しく見えるほうがむしろ不思議』なんだそうです!我々が見ているものが、実はほとんどが錯覚だという、なんともコペルニクス的な話ですね。
では実際、私たちは何を見ているのか?
まず、私たちが目で物を見たときとは、網膜に外の世界が画像として映りこみます。外の世界は奥行きのある3次元なのに、網膜に映った時、奥行きがなくなって2次元データになってしまいます。それをみて、奥行きを感じる事ができるのは何故か?それには、脳の中にある事前情報が大きな役割を果たしているというのです。事前情報とは、今まで見てきた数々の情報が蓄積された経験値です。
目から得られる情報は常に計測のプロセスを要します。カメラで外を撮っているような情報ですので、時として歪んだり、ノイズがかかったり不完全なものです。その不完全さを脳が事前情報を頼りに補修し、我々が感じる世界を構築しているそうです。ですので、必ずしも真実そのものを写し取っているわけではなく、推測して作り上げる。なんとも面白い現象です。
また、脳は照明環境を補正する力があります。中央に丸い円が2つ描かれいるとしましょう。どちらの円も同じ色なのに、一つの円の周りは明るく、もう一方の円の周りは暗い状態だと、2つの円の色が違って見える。周りが明るい円のほうが暗く見えてしまうのです。わかっていてもそう見えるのは、これも脳の大きな働きによるものです。
視覚だけではなく、感覚も大きな錯覚を起こします。ラバーバンド錯覚という有名な実験か紹介されていました。
ラバーバンド錯覚とは、対象者に人工手(ラバーハンド)を見せ、見えないようにした本人の手と人工手をブラシで同時に撫でると、人工手がまるで自分の手のように感じる錯覚です。
これは、視覚や触覚など複数の感覚の情報が一致したものを自分の身体だと判断してしまうメカニズムが働いています。
ある実験では、手に人工の指を一つ付け加え、指を6本にして、6本目の指を脳の信号で動かす事をしていました。脳はしっかり信号を送り、6本でもしっかり動かせたのです。
人間は脳に縛られず、かなりの柔軟性があることが分かりました。この実験によって、手足を人工的なものに置き換えることは難しくなく、錯覚を利用した分身が大きな役割を果たせることを示したといいます。
近い将来には、ロボットを自分のアバター(分身)にして、自分の体に置き換えて手足を動かし、ロボットが見たものを自分の目で見たように感じられることが可能であるとのこと!分身であれば、自分の身体が弱ってしまっても、代わりに行きたい場所へ行ってくれるし、やりたいことも実現してくれるでしょう。介護の分野で大いに活躍するかもしれませんね。
錯覚という人間の特徴をうまく利用し、技術とコラボによって身体の概念、脳の概念さえも大きく変わりつつある世界。ちょっも怖さも感じますが、すごいところまで来たんだなぁと、ワクワクしました。
アバターと現実が混ざり合った世界になる日も、そう遠くはないかもしれません。